お 釈 迦 様


弟子の数が多くなるにつれ、師にない新参の弟子は衣の着方も悪く、食の仕方も乱れているので、世尊は弟子達が師匠を持つことを許した。
師匠は弟子を子の様に思い、弟子は師匠を父のように思い、お互いに敬い喜び悲しみを共にし、共に教えを進み見る事が出来る。しかし弟子が師匠に対し、愛なく、敬いなく、慈しみのないときは、弟子を追い出してよい。

さて教団が大きくなり、あらゆる地に根を下ろしていきました。世尊は驕り高ぶりはなかったが、教団を狙う者が現れた。それが提婆(ダイバ)なのです。

ある日世尊は王舎城へ帰り、竹林精舎に滞在したときのことである。久しく雨が降らなかったので、弟子達は食を乞うのに困難でした。勝れた弟子は別として、特にダイバは食を得るのが、ままならぬのは自分に神通力がないからと思い込み、ある日世尊に詣でて、神通力を得る道を授けて欲しいと願った。しかし世尊は神通力を得るよりも無常・苦・空・無我の理を思ったほうが良いと願いをしりぞけた。
その年の夏に弟子達を伴って、コーサンビーに行き安居をし、弟子達がお互いに睦まじく道を語り合っている事を常としていた。その様子がダイバにとって、自分が独りであるというこが、よそよそしいと思い教団を捨てて王舎城へ行った。

王舎城へ行ったダイバは、16歳になるアジャセ太子を訪れ、手段を尽くし、太子の心を奪い、帰依を得るになり僧房を建て、供養を受けることになった。外護者を得たダイバは、日ごとに盛んになっていった。
ダイバは、世尊に代わって教団を統一しようと企てた。世尊がダイバの企てを知っているとも知らず、腹心の弟子達を連れて竹林精舎へ急いだ。ダイバは世尊に礼をなし言った。
「世尊はもう年老いて、力も衰えています。弟子達を教えを養うことも痛々しくおわすことかと思いますので、これより後は私が世尊に代わって、弟子達のために法を説くでありましょう。世尊は思う存分、禅定をお楽しみ下さい。」
世尊は「ダイバよ。私は舎利弗・目連のような智慧が明らかで、行いが勝れた聖者にすら、まだこの大衆の教えをゆだねていないのに、どうしてお前のような儲けのための者に、大衆をゆだめることができようか。」
ダイバは一言も言えずに退いた。辱められたと怨み、いつか報いねばならぬと思っていた。

ダイバは新しい規律を設けたいと申し出たが、世尊は厳しい規律よりも心の垢を落とすほうが大切とし、申し出を許さなかった。ダイバは新しい規律で進もうと決め、布薩の日に規律を唱え、人々の賛同を得て500人の出家者がありました。教団の規律を知らないためにダイバに付いて行ったのです。
舎利弗と目連は世尊の許しを得て、弟子達を救い出そうとダイバのいる所へ向かった。ダイバは二人の姿を見て喜び、自分に代わって法を説くように言うと、眠ったのです。
そのとき舎利弗は神通を現し、目連が法を説きました。500人の弟子達は、夢が醒めたように誤りを悔い、すぐに二人に連れられて山を下りました。起こされたダイバは大地を踏んで怒った。

ダイバの教団は、500人の弟子を取り返され、大きな打撃を受けた。頼みとするのは、アジャセ太子のみである。ダイバはアジャセを訪れ、
「父王の生きておられる間は王位に付く事はできないし、ついても短いので、一日も早く父王に代わって王位を継ぐがよい。私もゴータマを害って、法の王をなりましょう。」
アジャセは退けたが、ダイバの巧みな言葉に太子は心を高ぶらせ、従わせることができた。

ある日アジャセは、剣を持って王宮の門に進んだが、門番はアジャセの取り乱した様子をみて問いました。
「ダイバの勧めで父王を殺そうと思うのである。」臣人達は驚いて王に告げました。王は一人の太子を殺すに忍びないと、王位を譲りました。しかしアジャセはダイバの勧めで、王を捕まえ、牢獄に押し込めました。イダイケ夫人は、浴して身体を清め、蜜を炒り麦粉に混ぜ、体に塗り牢獄へ入って、体に塗った炒り麦子を集めて王に進め、王は何も食べたいなかったのでそれを食べました。

王は掌を合わせ、霊鷲山に向かい世尊に礼をして言いました。
「どうぞ お慈悲をもって私に信者としてのなすべき道を教えて下さい。」
そのとき、目連は隼のように王の所は赴き、信者の道を説き又、世尊は富楼那を送り、王のために21日間法を説いた。

アジャセ王は、父王の門番に父は生きているかと聞き、門番はイダイケ夫人が炒り麦子を王に捧げているとこや目連や富楼那などの弟子が空から飛んできて、法を説いていること告げました。怒ったアジャセは母の仕打ちに怒り、殺そうとしましたが、大臣の月光は名医のギバとアジャセに礼をし言いました。
「天地が開けてこのかた、悪い王が位を貪るために父親を殺した者はおりましすが、よこしまにも母を害したという者は一人もおりません。王が逆事なさるならが、王室を汚すものと言わねばならぬ。かかる業をなすものは、悪魔であり、ここにあるべき方でなありません。」
アジャセは誤りを悔い、剣を捨てて母を奥宮に押し込めました。

イダイケ夫人は、霊鷲山にいる世尊を礼拝し、目連・阿難尊者に遭わせて下さいと拝すると、頭を上げないうちに世尊は夫人の心が分り、空を飛んで王宮に降りました。夫人が頭を上げて見て奉ると、世尊の見は金色に輝き、左に目連、右に阿難がいました。
夫人ははき崩れ、浅ましい悪い世の中がイヤになったので、憂いのない道を教えて下さい。清らかな国を見せて下さいと言いました。世尊は眉間から光を放ち、普く十方の量りしれない国々を照らし、あらゆる仏の清らかな国々が現れた。
夫人は阿弥陀仏の許に生まれたいと願い、正しく思いを受ける事を教えました。

一方、ダイバはアジャセ王に頼んで、64人の兵を選び、初めに二人を遣わして世尊を殺させ、他の道から帰るように言い、更に四人遣わし、先の二人を殺させ、更に八人遣わし、先の四人を殺させ、数を倍にし32人の兵を殺し、何人もが世尊を怨んで殺したかのように、世にしらしめようと企てました。

霊鷲山の巌谷を出て歩いておられた世尊に、二人の兵士が刀をとって世尊に近づこうとしたが、威神(ミイズ)に打たれ進みかね、世尊の澄んだ心に二人は随う喜びの念に打たれ、刀を捨て教えを受けて三宝に帰依しました。ダイバは霊鷲山に登り、大きな石を世尊めがけて投げた。世尊の足に触れて血が流れた。しかし世尊を殺すに至らなかったダイバの企ては、ことごとく失敗した。

アジャセの父であるポンバシャラ王は、夫人が押し込められてから、食を絶たれたので、わずかに窓を通して見える霊鷲山の山を仰ぎ、心の慰めとしていたが、これを聞いたアジャセは窓をふさぎ、立つ事ができないように足の裏を削った。
同じ頃、アジャセの子が指先に腫れ物を患っていた。アジャセは膿を吸い取った。イダイケ夫人はアジャセが幼い頃に同じ腫れ物で病み、父が膿を吸い取った話をし、アジャセはこれを聞いて怒りが鎮まり、愛慕の念に変わり、父が生きているか見に行かせたが、父王はまた刑を与えにきのと思い、苦しみ悶えて床に倒れてそのまま息絶えた。

罪もない父王を楽しみに心がくらんで、死に至らしめたアジャセは悔しい思いに打ちしがれ、体は熱を病み、全身に腫れ物ができ、膿が流れ、臭くて近づき難くなった。
アジャセの病を聞いて、六人の大臣が代わるがわる訪ね、それぞれ信じている師の教えを受けるように勧めた。そのとき父王の声が聞こえ、ギバに随って世尊の許へ行き、六人の大臣の言葉に迷ってはいけないと言い、ますます腫れ物が増えたので、アジャセは苦しみました。

世尊はこの様子を見ており、アジャセのために大光明を放ち、アジャセの身を照らすと全身の腫れ物は跡形もなくなり、ギバの随う通りに世尊の許へ行った。

アジャセは世尊の教えを受け帰依した。そして世尊と御弟子達とを宮殿に迎え、ダイバとその徒衆を門内に入れてはならぬと家臣達に告げた。そうとは知らないダイバは、宮殿の門に来ると門番から王から告げられたことを言った。ダイバは怒って門外に立っていると、蓮華色比丘尼に怒りを発し、尼の頭を打ち、謂れのないことと言ったが、とうとう頭を打ち割ってしまった。蓮華色比丘尼は精舎へ戻り、尼達に告げて息を引き取った。

ダイバは遂に10本の指に毒を塗り、祇園精舎にいる世尊に近づこうと企てた。ダイバは精舎に近づいて、弟子達の足を洗う池の周りに来て、しばらく木陰にいた。世尊は恐れている弟子達を制した。このときダイバのいる大地は沈んで、炎が燃え上がり、たちまちヒザを埋め、ヘソ、肩に及んだ。彼は火に焼かれて自分の罪を悔い、南無佛と叫びながら沈んだ。2つの金梃(カナテコ)は、ダイバを前と後ろから挟み、そのまま燃える大地に巻き込み、無間地獄に引き込んだ。


       


イラスト 山崎祥琳様

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