お 釈 迦 様



ヒマラヤ山中にスメーダという修行僧がおりました。
豊かな都アマラワティーに住むバラモンで、不滅の悟りを得るために出家をしました。七代前から莫大な財産を受け継いだ賢者だったが、真実の悟りを求めなければ苦しみや迷いから抜け出せないことを知り、財宝・着物・穀物など全て人々に分け与え、都を出て深い山中に入り、木の皮をまとい瞑想にふけった。

七日間で絶妙な神通力を得たスメーダは、ある日 ラマンの都の上を神通力でもって飛んでいたとき、あらゆる人々が最高の興奮に沸き立ち、歓喜の渦が天を突き上げるようにひしめいている様子に目を見張りました。そしてスメーダは何があるのかと町の者に尋ねると…
燃灯仏が40万人のお弟子達と一緒にこの都においでになるので、私達は供養をさせて頂く有難さで喜び、食事の用意をしたり、町を飾ったり、道をなおしたり働いているのです。」

スメーダは衝撃に震え、名前を耳にすることすら有難かったのです。そしてスメーダは…
「私にもぜひ働かせて下さい。供養をさせて下さい。洪水のために途切れた道がありましたね。どうか、あの一番ひどい所を私に修復をさせて下さい。」
神通力を使えば一瞬に直すことができるが、体を使って修復に努めたが、直りきらないうちに仏の一行が見えました。スメーダは髪をほどき、世尊に言いました。
「世尊 私の幸福と利益のために、どうぞ泥を踏まずにお弟子方と一緒に私の背中を踏んで、お通り下さい。」と体を橋のようにして泥の中へうつ伏せになりました。

仏の一行はスメーダの近くまで来ると立ち止まり、全てを見通し取り囲む大勢の民衆に予言しました。
「この修行者は身を捨てて仏となろうとする偉大な誓願を立てた。遠い未来ではあるが、ゴータマ・シッタールダという名の尊い仏となるだろう」 
仏の一行はスメーダに礼拝し、山ほどの花を手向けて去りました。

誰もいなくなったからスメーダは、身を起こし積み上げられた花の上に結跏趺坐して、菩薩になるための修行を始めました。すると一万にも及ぶ天人天女が降りてきて、歓喜をあげました。長い時間、正しい道のあり方を探り続けた末、目を開け菩薩への道は10種類の波羅蜜と見極め、再び天人天女が香華を降り注ぎ礼拝した。スメーダは励ましに感謝をし、ヒマラヤの修行地へ戻って行きました。

その後、スメーダは輪廻転生を繰り返し、兜率天(とそつてん)に昇りました。

スメーダは仏となるべき位に昇り、兜率天に生まれて[浄童(じょうどう)]という菩薩になり、常に正法殿の獅子座にのぼり、神々に法を説いていました。ある日の集いの神々の調べに
『聖者よ、昔、燃灯仏から仏の保証を得て、今や行も智も足りた。人の世に下り、甘露の水を注がせたまえ。法の雨を降らせ、魔の行為や異教を砕きて、菩薩の道を示して世の人々を救いませ』(略)
歌を聞いた菩薩は大きな使命を覚え、人の世に下ろうと決心しました。

神々は喜びの声をあげた。浄童菩薩は人界を見下ろし誉れ高い種族に生まれようと、カピラワットの釈迦族の王、ゴータマ家を選びました。王の浄飯王は常に善い行いをし、正しく国を治め、人々を導くことで知られていた。妃のマーヤー夫人は、コーリヤ国の姫で、容姿端麗で心は素直で、種々の技に勝れ、人々から慕われていました。

菩薩は神々に法を説き、天界を降りようとした時、天界の人々は兜率天に集まり、音楽を奏だし菩薩を供養した。その時、菩薩の体から光を放ち、あまねく三千大千世界を照らして、闇を払った。人々は喜びに心を躍らせました。


菩薩は六本の牙を持つ白い象となって兜率天を降り、眠っている摩耶夫人の右脇下から胎内へ入りました。
金色の牙を持つ象が、マヤ夫人の右脇から入り懐妊した後に、浄飯王はバラモンに占わせると、天の定めを抱いた王子を身ごもった事が判りました。
このときの奇跡は、奇麗な蓮華の花が咲き、心安らぐ音楽が何処からともなく流れ、乾燥期の最中でも川は乾かず、過ごしやすい日々が続き、都を狙った軍隊は、イナゴの大群に襲われ逃げ帰った。動物達は親しみを抱いて王に近づいて来るので、王は狩りをすることができませんでした。

臨月のある日、出産のために故郷へ急いでいる途中にルンビニー園で休憩をしていました。マヤ夫人は薄黄色の花に手を伸ばした途端に産気づいて、何の苦痛もなく右脇から誕生しました。
誕生したと同時に右手を上に左手を下に向け、四方に七歩歩み「天の下にも天の上にも、我こそ最も尊きものなり。世に満ちる苦しみを除くであろう。」と言いました。
神々はマヤ夫人の徳を讃え、竜王は冷たい水と暖かい水を交互に降らせ、王子の身を洗い、大地は喜びのあまり振るい動いた。王宮に迎えられた王子は、シッタールダと名付けられた。しかし王子が誕生して七日目にマヤ夫人はこの世を去って、妹であるマナージャパティが後の王妃となりました。

王子は誕生したときの偉大な予感がして、仙人のアシタ仙が甥を連れて王宮を訪ねました。仙人は王子の眺めていましたが、たちまち悲しい顔になり涙にむせびながら…
「王よ、この子がもし家にいたなら、天輪王となって四天下を納めるでありましょうが、必ず出家して仏となり、普く人々に恵みを与えるでありましょう。しかし私はこの仏の法を聞くことが出来ない事を思って、悲しみに涙しました。」
浄飯王はこれを聞いて、大いに喜びました。


太子は健やかに育ち、ある日王と一緒に耕し祭に行きました。土の中から現れた虫を鳥が襲って食べてしまった。太子は生きる事の意味は何か、何故死ななければいけないのかと思いを馳せ、悲しみのあまり林に入り込んで閻浮樹の下に坐り、深い思いに沈まれた。不思議なことに太陽の角度が傾こうとも、太子が坐っている所は、日陰になったまま影を移してなかった。

太子は普通の青年が好むような事は嫌っていたので、浄飯王はアシタ仙が言っていた言葉がのしかかていました。王は考えた末に妃を迎えることを思い立ち、ヤショーダラという母方のコーリア城主の長女が選ばれた。

十年近く妃と平和な生活をしていたが、思いは巡らせていた。ある日太子がお城を出て、林に遊ぼうと思い立たれたと聞いた王は、道を清め町を飾り、園林を掃かせた。
東門から出た太子は、髪が白く体が衰え、杖にすがって歩いている人を見られ、御者に訪ねた。御者は…
「老人でございます。人として生まれた者は、いつかはあのようになるのです。」
太子は憂いて、すぐに宮殿へ帰った。
南門から出た太子は、蒼白な顔で苦しみもがいている人を見て、御者に尋ねた。御者は…
「病人です。誰でもあのような姿になるのです。」
太子は更に憂いが広がり、宮殿へ帰った。
西門から出た太子は、屍を輿に乗せて悲しみに嘆き、送りゆく一行に出会った。御者に尋ねると…
「死人です。誰でもあのような姿になるのです。」
太子の心の奥に御者の言葉が刺さり、全身を揺さぶった。
北門から出た太子は、髪やヒゲを剃り、衣を着けて、手には鉢を持ち、おごそかに歩み行く人があった。御者に尋ねると…
「出家者です。」
太子は馬車を降り礼をして「どのような利益があるのですか?」と尋ねた。
出家者は「私は老病死の無常を見て解脱しようと思い、親族を捨てて静かな所に道を求めております。正しい法によって大慈悲をもって人々を守り、世間の汚れに染まらないのが出家の利益です。」
それを聞いた太子は、出家を決意し、出家者に礼拝し、宮殿へ戻った。

日暮れ近くに王の使いが、王子誕生の知らせがきた。太子は「私の破らねばならない障りが生まれた。」の言葉の障り(ラーフラ)の言葉だけを耳にして、使いのものは王に告げた。王は太子が、出家を思い留まってくれると思い込んで喜んだ。
太子を慰めようと宮女達が音楽を奏でていたが、興味のない太子は眠りについた。それを見た女達は舞いをやめてしまい、眠ってしまった。目が覚めた太子は、舞姫の浅ましい姿を見て身震いをした。

すぐに宮殿を出ようと御者のチャンナを呼んで、馬の準備をさせた。妃の寝室へ行き、息子を抱き上げようとしたが、妃が目を覚まし出家を妨げられると思い、悟りを開いてから息子を見ようとそのまま城の大門へ行きました。
王が出家を気づかって、千人の兵士を置いていたが、兵達は眠りにおち、千人をもっても開かない扉が音もなく開いた。

太子は城を眺めることを我慢し進んだ。
二十余里を馳せて夜明けにアノーマ河の岸に至り、従者のチャンナに服を与えた。そして自らの髪を解いて摩尼宝珠を出し「王に捧げて伝えて欲しい。人は思いや情に繋がれているが、老い・病・死を免れる事は出来ない。どうかこの理を思って憂いを除いて下さい。悟りを得るまでは、決して帰りません。」
瓔珞をはずして「これは母に捧げて欲しい。太子は出家して苦の元を断とうと思った。どうか憂いを除いて下さい。」と。
さらに飾りをはずして「これを妃に捧げて欲しい。人の世は必ず別れの悲しみがある。その悲しみを断とうと思い立った。憂いに沈んではならない。」

太子はビシャリ国のバッガバ仙人を訪ねたが、真の道ではないと翌日に南に河を渡って、王舎城へ進み、お城の北ミルナ山中に住んでいるアーラーラ・カーラーマ仙人を訪ねた。太子は仙人の教えを間もなく体得したが、正しい悟りではないと仙人の元を去った。今度はウッダカ仙人を訪ねた。仙人の教えを体得したが、これも正しい悟りではないと思い、ウッダカの元を離れて道を求めた。
王舎城に入った太子は托鉢をした。人々は太子の気高い姿を見て、争ってその後を慕い歩き、ついにはビンバシャラ王を驚かせた。王は布施を申し出たが、太子は悟りを得られたら済度して欲しいと願って、西南に進みニレンゼン河を渡って、ウルビラの静かな林に入った。ここで六年間の修行を行いました。

父である浄飯王が出家した太子に従わせた五人の者も、いつしか太子と一緒に苦行を始めるものとなった。食を減らし、只ひたすら精進したり、息を止める無息の禅定などの凄い苦行をしました。更に断食をして瞳は落ち窪み、あばら骨は突き出て、頭皮はしわんできた。お腹を触れば背中の皮が掴め、背中を触ればお腹の皮が掴め、髪の毛は根が腐って抜け落ちました。
これまで全ての苦行をしてきたが、神聖な知恵に達せず、解脱に導き、煩悩をなくした清い智恵に達する事が、出来るものではないと悟って、新しい道を求めることにしました。

ニレンゼン河で沐浴をして村へ入り、バニヤンの樹の下に坐っていました。そこへ村の地主の娘スジャータが、神へ乳粥を捧げようと林へ入りました。衰えているものの気高い修行者を見て、敬いの気持ちを起こして乳粥を捧げました。太子はこれを受食べて、体力を回復した太子は林に行かれ、大きなピッパラのへ行き、そこで丁度草刈りをしていた童子から吉祥草の供養を受け、太子は「悟りを得なければ、生きてこの座をたたないであろう。」と誓った。
太子と一緒に修行をしていた五人は、太子が挫折をしたと思い、蔑みサルナートの鹿野苑へ行きました。


その時、魔王の住んでいるの宮殿は激震し、悶え苦しんだ。何事かと魔王が見てみると、太子が真理の道を完成させようとしている。立場がなくなる魔王は、三人の娘を地上に送り込んで、太子を誘惑しようとしました。しかし太子は一撃で追い払いました。追い払われた悪魔は、一億八千の悪魔や夜叉を送り込んだが、太子は動じることはなかった。
魔王は太子が悟りを開いて輪廻を脱する方法を体得されてしまうと、死を司る魔王の支配が破られてしまうので、魔王は必死に妨害し、地上を微塵に粉砕するかのように軍勢に大攻撃をさせました。しかし太子が大地を指すと大地が割れ、地の神が現れたので、魔王は恐れて逃げ帰りました。太子はようやく平安を取り戻し、一層深い禅定に入りました。

太子は悟りを開き、供養を受けるに相応しいブッタとなりました。12月8日の暁、夜明けの明星の頃でありました。

世尊となった太子は、ニレンゼン河の辺、菩提樹の下で悟りを開いて7日間座を動かずに悟りを楽しみ、その後は7日ごとに座を変えて七箇所で座を変え、禅定に入り、解脱の楽しみを味わいました。そしてニグローダの樹に坐り…
「私が悟ったこの悟りは、並みの道理では理解出来ない。賢者のみ知り得るものである。欲の楽しみに耽っている人々に法を説いても彼等は悟ることができない。」
これを聞いた梵天は「この世が滅びる。この世が壊れる。世尊は法を説こうとはしない。」と嘆き、梵天の世界から世尊の前に現れ、世尊に拝して申し上げた。
「世尊、なにとぞ法をお説き下さい。世には穢れに染まらない眼を持つ者もいます。もし彼等が法を聞かないのから、滅びてしまいます。彼等は必ず世尊の法を悟るでありましょう。」世尊は法を説く事を承知しました。



イラスト 山崎祥琳様

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